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「神経を抜いた奥歯がなんとなく痛い……これって歯根破折なの?」

「別の歯科で”抜くしかない”と言われたけど、抜く前に相談できる場所はないの?」歯根破折は、歯の根にヒビや割れが入った状態です。特に神経を抜いた歯(失活歯)では、痛みを感じるセンサーが機能しないため、症状がほとんどないまま静かに進行します。「違和感がある」「噛むとなんとなく痛い」程度のサインしか出ないうちに、気づいたときには骨まで溶けていた…というのが、この病態の怖いところです。

さらに、抜歯してから相談に来られるケースも少なくありませんが、抜いた直後から骨の吸収は始まっており、数日の差で「抜歯即時インプラント」が選べなくなったり、GBR(骨造成)が必要になって治療期間が数ヶ月以上延びてしまうことがあります。

このページでは、歯根破折の症状・診断方法・治療の選択肢を、長崎県長与町の渡辺歯科医院・院長の渡邉が解説します。歯根破折の診断を受けた方、または「もしかしてひびが入っているかも」と不安を抱えている方は、ぜひ最後までご覧ください。

目次

歯根破折とは?「歯の根が割れる」状態を正確に理解する

歯根破折とは、その名の通り、歯の根の部分にヒビが入ったり割れたりした状態のことを指します。

歯ぐきの中に埋まっている根の部分にダメージが及ぶため、外から見ただけでは気づきにくく、発見が遅れやすいという特徴があります。

歯根破折には、大きく分けて2つのタイプがあります。一つは、根に沿って縦方向に割れる「垂直性歯根破折」、もう一つは横方向に割れる「水平性歯根破折」です。

この2つは、その後の予後が大きく異なります。特に垂直性の破折は、割れた隙間から細菌が入り込みやすく、歯の根の周囲で感染が広がってしまうため、残念ながら抜歯に至るケースが多くなります。

歯根破折は、虫歯・歯周病に次いで、歯を失う原因の第3位とも言われています。決して珍しいものではなく、多くの方に起こりうる身近なトラブルです。

そして、歯根破折が特に多く見られるのが、過去に神経を抜いた歯です。なぜ神経を抜いた歯が割れやすいのか、次の章で詳しく解説していきます。

なぜ「神経を抜いた歯(失活歯)」は特に割れやすいのか

神経を抜いた歯のことを、専門的には「失活歯」と呼びます。この失活歯は、神経が生きている歯(生活歯)と比べて、格段に割れやすくなる性質を持っています。

その理由を、よく「枯れ木」にたとえて説明しています。生きている木の枝は、水分や弾力があってしなやかに曲がりますが、枯れ木はパキッと簡単に折れてしまいます。歯もこれと同じで、時間の経過とともに脆くなっていきます。さらに、神経を抜く処置では歯の内部を削るため、歯そのものの厚みも薄くなり、強度が低下してしまうのです。

実際の診療で多く見られるのが、歯と歯の間(隣接面)から縦方向にヒビが入っていくケースです。

隣接面に古い詰め物や治療の痕が並んでいる患者様のお口を拝見すると、すでに細かなクラック(ひび)が入っていることが少なくありません。

つまり、過去に大きな治療を繰り返してきた歯ほど、知らないうちに割れるリスクが高まっているということです。神経を抜いた歯を持つ方は、たとえ今は症状がなくても、こうしたリスクがあることを知っておくことが大切です。

隣接面に虫歯が多い=咬合力のリスクがある

歯と歯の間(隣接面)に虫歯が多い方には、実は注意していただきたいポイントがあります。

それは、その虫歯が「単なる磨き残しの問題」ではなく、噛む力(咬合力)が関係している可能性があるということです。

私が日々の診療でお伝えしているのは、隣接面のトラブルの根本には、力の問題が隠れていることが多いという視点です。強い噛む力が繰り返し歯に加わると、歯の表面に目に見えないほどの細かなヒビ(クラック)が入ります。そのヒビの隙間から細菌が侵入し、そこが虫歯になっていくのです。

そして、虫歯になった部分を治療するためには、歯を削らなければなりません。削れば歯質が減り、歯はさらに弱くなります。弱くなった歯には、また力が集中してヒビが入り、そこからまた虫歯になる——という悪循環が生まれてしまいます。

ここで大切なのは、「虫歯そのものが原因」なのではなく、「クラックや力の問題が根本にある」という考え方です。歯磨きを一生懸命していても隣接面の虫歯を繰り返してしまう方は、噛む力や噛み合わせに目を向けることで、根本的な解決につながる可能性があります。歯根破折を防ぐうえでも、この「力」への意識はとても重要になります。

歯根破折が起きやすい3つのパターン:あなたは該当していませんか?

歯根破折は、誰にでも同じように起こるわけではありません。臨床的に見て、特にリスクが高まる典型的なパターンがあります。ここでは、代表的な3つのパターンをご紹介します。ご自身が当てはまっていないか、確認しながらお読みください。

1つ目は、神経を抜いた歯に金属の土台(メタルコア)が入っているケースです。神経を抜いた歯は、被せ物を支えるために「コア」と呼ばれる土台を歯の中に入れます。このコアが硬い金属でできている場合、噛む力が加わったときに、金属が楔(くさび)のように歯を内側から押し広げ、歯の根を割ってしまうことがあります。

2つ目は、歯ぎしりや食いしばりの習慣が強い方です。就寝中の歯ぎしりや、日中の無意識の食いしばりによって、歯には非常に大きな力が繰り返しかかります。この持続的な負担が、歯の根に少しずつダメージを蓄積させ、破折のリスクを高めます。

3つ目は、大きな虫歯治療を受けて、被せ物(クラウン)が入っている歯です。大きく削った歯は、それだけ残っている歯質が少なくなっており、構造的に弱くなっています。被せ物が入っているということは、過去にそれだけ大きな治療を受けた証でもあり、割れるリスクを抱えていると言えます。

これらに複数当てはまる方は、特に注意が必要です。次の章では、実際に歯根破折が起きたときに、どのような症状が現れるのかを解説します。

歯根破折の症状チェック:こんなサインを見逃さないで

歯根破折の怖いところは、はっきりとした強い症状が出にくいという点にあります。

「ある日突然、激しく痛み出す」というよりも、「なんとなくおかしい」という小さなサインから静かに進行していくことがほとんどです。

特に神経を抜いた歯では、痛みを感じるセンサーである神経そのものがすでにないため、自覚症状が非常に乏しくなります。そのため、ご本人が気づかないうちに破折が進み、周囲の骨にまでダメージが及んでしまうことも少なくありません。

だからこそ、わずかなサインを見逃さないことが、歯を守るうえでとても重要になります。「これくらい大丈夫だろう」と見過ごしてしまいがちな小さな違和感の中に、歯根破折のサインが隠れていることがあるのです。

ここからは、歯根破折で現れやすい症状を、初期から進行した段階まで順番に解説していきます。ご自身やご家族に当てはまる症状がないか、チェックしながら読み進めてみてください。

初期症状:「噛むと違和感がある」「なんとなく浮いた感じ」


歯根破折の初期に現れるサインは、とても些細なものが多く、見過ごされがちです。

代表的なのが、「噛むと、なんとなく違和感がある」「歯が浮いたような感じがする」「むずむずする」といった、はっきりとは表現しづらい感覚です。

特に神経を抜いた歯では、痛みを感じる神経がないため、「ズキズキ痛む」という分かりやすい症状はほとんど出ません。その代わりに現れるのが、こうした漠然とした違和感です。「痛いわけではないけれど、どこか落ち着かない」「その歯で噛むのを無意識に避けている」といった状態が、初期のサインであることがあります。

一方で、神経がまだ生きている歯に破折が起きた場合には、冷たいものや熱いものがしみたり、噛んだときにズキッとした痛みが出たりすることもあります。神経があるぶん、症状として現れやすい傾向があります。

いずれの場合も、大切なのは「いつもと違う」という感覚を軽視しないことです。違和感はお口からの大切なサインです。「少し様子を見よう」と放置しているうちに破折が進んでしまうこともあるため、こうした感覚に気づいたら、早めに歯科医院で相談されることをおすすめします。

進行すると:歯ぐきの腫れ・フィステル(ぷくっとした膨らみ)が現れる

歯根破折が進行すると、初期の漠然とした違和感に加えて、より分かりやすい症状が現れてきます。その代表的なものが、歯ぐきの腫れと「フィステル」です。

破折した部分には、割れた隙間から細菌が侵入していきます。細菌が歯の根の周囲で増殖すると、そこに膿がたまり始めます。やがてその膿の出口として、歯ぐきの表面にぷくっとした膨らみができることがあります。これを「フィステル(瘻孔)」と呼びます。ニキビのような、白っぽく膨らんだできものに見えることもあります。

フィステルは、押すと膿が出たり、つぶれて一時的に小さくなったりすることがあります。痛みを伴わないことも多いため、「気になるけれど痛くないから」と放置されがちですが、これは歯の内部で感染が進んでいる重要なサインです。

実際の診療でも、歯ぐきにフィステルがある患者様のお口を詳しく調べると、歯根破折が見つかるケースが非常に多くあります。フィステルは、見えない場所で起きている異常を教えてくれる、わかりやすい目印とも言えます。

もし歯ぐきに、ぷくっとした膨らみや、繰り返しできる腫れに気づいたら、それは歯の根からのサインかもしれません。痛みがなくても、できるだけ早めに歯科医院で確認してもらうことが大切です。

そのまま放置すると:骨が溶け、インプラントも難しくなる

歯根破折を放置してしまうと、問題は割れた歯だけにとどまりません。破折した部分から侵入した細菌が、歯を支えている周囲の骨にまでダメージを広げていきます。

破折部で慢性的な感染が続くと、その周囲の骨が少しずつ溶けて失われていきます。これを骨吸収と呼びます。やっかいなのは、この骨吸収が痛みをほとんど伴わずに進行することです。「痛くないから大丈夫」と思っているうちに、気づいたときには歯の周りの骨が大きく失われていた、ということが起こり得ます。

この骨の喪失が、その後の治療に大きく影響します。歯根破折で歯を抜いた後、インプラント治療を希望される方は多いのですが、インプラントは顎の骨に固定する治療です。土台となる骨が大きく失われてしまっていると、そのままではインプラントを埋入できず、骨を増やすGBR(骨造成)という追加の処置が必要になります。

GBRが必要になると、その分だけ治療期間は長くなり、外科処置の回数や費用の負担も増えてしまいます。本来であればもっとシンプルに済んだはずの治療が、放置によって複雑になってしまうのです。

つまり、歯根破折は「早く対応すればするほど、その後の治療の選択肢が広がり、負担が軽くなる」病態です。違和感やフィステルなどのサインに気づいた段階で行動することが、ご自身のお口の未来を守ることにつながります。

「数日の差」でGBRが必要になった患者様のケース

歯根破折において「早めの対応がいかに大切か」を、実際のケースを通してお伝えします。

ある患者様は、別の歯科医院で奥歯の歯根破折と診断され、その場で抜歯を受けられました。

そして抜歯から数日後、「抜いた後、どうすればいいか」とインプラントのご相談に当院へいらっしゃいました。

しかし、お口の状態を詳しく確認したところ、抜歯した部分の骨がすでに吸収を始めており、抜歯と同時にインプラントを埋入する「抜歯後即時インプラント」を選択することが難しい状態になっていました。そのため、まず骨を増やすGBR(骨造成)を行い、骨ができあがるのを待ってからインプラントを埋入するという治療計画になりました。

通常、抜歯即時インプラントが選択できれば、治療期間はおよそ4〜6ヶ月で完了します。しかし、GBRが必要になったことで、治療期間は約1年以上に延びてしまいました。外科処置の回数も増え、患者様にとっては時間的にも、身体的にも、費用的にも、負担が大きくなってしまったのです。

このケースで私がお伝えしたいのは、「もし抜歯をする前に来ていただけていたら」という点です。抜歯前にご相談いただければ、抜歯と同時にインプラントを埋入し、骨を温存できた可能性がありました。そうすれば、患者様の負担はもっと少なく済んだはずなのです。

ただ抜歯前であっても、どうしてもやむを得ず抜歯してGBRが必要にになることはありますので、ケースバイケースですが、選択肢が広がることは確かです。

抜歯は、一度行うと取り返しがつきません。だからこそ、歯根破折と診断されても、抜く前に一度立ち止まって相談していただくことが、とても大切だと考えています。

歯根破折はどうやって診断する?実はレントゲンだけでは分からない

「歯根破折かどうか、どうやって調べるの?」という疑問がある方は多いと思います。実は、歯根破折の診断は、一般的に思われているほど簡単ではありません。

多くの方は、「レントゲンを撮れば、割れているかどうかすぐに分かる」とイメージされているかもしれません。

確かに、はっきりと割れて隙間が開いているような場合には、レントゲンでも確認できることがあります。

しかし、歯根破折の多くを占める垂直性の破折(縦方向の割れ)は、初期の段階ではレントゲンに写りにくいという厄介な特徴があります。

その理由は、レントゲンが平面的な2次元の画像だからです。割れの方向がレントゲンの撮影方向と一致していないと、ヒビが画像上で重なって見えなくなってしまい、写らないことがあるのです。

実際に、「レントゲンでは何ともないと言われたのに、症状が続いている」というケースは少なくありません。

だからこそ、歯根破折の診断には、レントゲンだけに頼らず、立体的に確認できるCTや、その他の複数の診査方法を組み合わせることが重要になります。

ここからは、当院が歯根破折を正確に診断するために、どのような方法を用いているのかをご紹介します。

CTによる3D診断:「見えないものを見る」ことで治療方針が決まる

歯根破折の診断において、大きな力を発揮するのがCTによる3次元(3D)診断です。一般的なレントゲンが平面的な2次元の画像であるのに対し、CTはお口の中を立体的に撮影し、あらゆる角度から確認することができます。

CTを使うことで、レントゲンでは写りにくかった破折のヒビを、立体的にとらえられる可能性が高まります。破折がどの位置にあるのか、どのくらいの深さまで及んでいるのか、どの方向に割れているのかなど、こうした情報を3次元的に把握することができます。

この情報は、治療方針を決めるうえで決定的に重要です。なぜなら、「歯を残せるのか、それとも残せないのか」という判断は、破折の状態を正確に把握して初めて、根拠を持って下すことができるからです。破折が浅く限られた範囲であれば歯を残せる可能性がありますし、根の深くまで及んでいる場合は保存が難しいという判断になります。

私がいつも大切にしているのは、「実際に見てみないと分からない、だからこそきちんと診断する」という姿勢です。なんとなくの推測で抜歯を判断するのではなく、CTでしっかりと状態を確認したうえで、患者様に納得していただける説明をすることを心がけています。

当院では、こうした精密な診断を行うためにCTを完備しています。歯根破折が疑われる場合には、CTによる立体的な診査を通じて、一本一本の歯について慎重に判断しています。

歯周ポケット測定・タッピングテストなど:複数の診断アプローチで見落としを防ぐ

歯根破折の診断では、CTが非常に有効ですが、それだけに頼るわけではありません。より確実に診断するために、複数の診査方法を組み合わせて、総合的に判断していきます。

その一つが、歯周ポケットの測定です。歯と歯ぐきの間の溝(歯周ポケット)の深さを、専用の器具で部位ごとに細かく測っていきます。歯根破折が起きていると、その割れたラインに沿って局所的に骨が吸収され、特定の一点だけ歯周ポケットが深くなっていることがあります。全体的には問題がないのに、一箇所だけ急に深い場所がある -こうした所見は、破折を示す重要な手がかりになります。

もう一つが、タッピングテストです。これは、歯を軽く叩いて、その反応や音、響き方を確認する方法です。破折している歯は、健康な歯とは異なる反応を示すことがあり、診断のヒントになります。

さらに、視診によって、歯の表面に見える破折線(クラックライン)を直接確認することもあります。必要に応じて、染め出し液を使ってヒビを目立たせる方法を用いることもあります。

このように、CT・歯周ポケット測定・タッピングテスト・視診といった複数のアプローチを組み合わせることで、一つの方法だけでは見落としてしまうような破折も、見逃さずに発見できる可能性が高まります。さまざまな角度から丁寧に診ることが、正確な診断と、患者様の安心につながると考えています。

歯を「抜かれる」前に:歯根破折の治療選択肢と「抜き方」の重要性

歯根破折と診断されると、多くの方は「もう抜くしかないのか」と考えてしまいます。

確かに、歯根破折は抜歯に至るケースが多い病態です。しかし、すべての歯根破折が、即座に抜歯になるわけではありません。

破折の状態やタイミング、残っている歯質の量、感染の程度などによって、選べる治療の選択肢は変わってきます。場合によっては、歯を残せる可能性もありますし、たとえ抜歯が避けられない場合であっても、「どのように抜くか」が、その後の治療を大きく左右します。

私が強くお伝えしたいのは、「歯を抜く前に、一度立ち止まって相談してほしい」ということです。抜歯は一度行ってしまうと、元には戻せません。だからこそ、本当に抜く必要があるのか、抜くとしたらどのように抜くのがその後にとって最善なのか、しっかりと検討することが大切なのです。

ここからは、歯根破折に対する具体的な治療の選択肢と、見落とされがちな「抜き方」の重要性について解説していきます。「抜くしかない」と言われた方も、ぜひ参考にしていただければと思います。

歯を残せるケース:接着保存治療・歯の挺出という選択肢

歯根破折と診断されても、条件が整っていれば、歯を残せる可能性があります。残っている歯質が十分にあり、感染がそれほど進んでいない場合には、いくつかの保存的な治療法を検討できます。

その一つが、口腔内接着法と呼ばれる治療です。これは、破折した部分を特殊な接着材料で固定し、歯を保存する方法です。割れた部分を接着することで、歯としての機能を維持できる場合があります。破折の程度が比較的軽く、ヒビが限られた範囲にとどまっているケースで選択肢となります。

もう一つが、歯の挺出(ていしゅつ)という方法です。これは、矯正的な力を使って、歯を少しずつ引き出してくる治療です。破折したラインが歯ぐきの中に隠れてしまっている場合でも、歯を引き出すことで、健全な歯質を歯ぐきの上に露出させ、被せ物を作るための土台(フェルール)を確保できることがあります。

例えば、当院では、他院で「抜歯するしかない」と言われた30代の患者様の前歯を、歯の挺出によって残すことができたケースがあります。一度は抜歯を覚悟されていた患者様にとって、ご自身の歯を残せたことは大きな喜びでした。

もちろん、これらの保存治療がすべてのケースで適用できるわけではありません。破折が深い場合や感染が大きく広がっている場合には、残念ながら保存が難しいこともあります。しかし、「抜くしかない」と思われた歯でも、診断次第で残せる道があるということを、知っておいていただきたいと思います。




抜歯が避けられない場合でも「抜き方」が次の治療を左右する

診査の結果、残念ながら抜歯が避けられないと判断されることもあります。しかし、その場合でも、ただ歯を抜けばよいというわけではありません。実は「どのように抜くか」が、その後の治療内容を大きく左右します。

歯を抜いた後の顎の骨は、時間の経過とともに自然に吸収されて痩せていきます。この骨の吸収をいかに抑えるかが、次の治療の選択肢を広げる鍵になります。

そこで重要になるのが、抜歯のタイミングと方法です。大きく分けて、2つのアプローチがあります。

一つは、抜歯と同時にインプラントを埋入する「抜歯即時インプラント」。これは、骨が吸収する前にインプラントを入れることで、骨を温存する方法です。

もう一つは、抜歯した穴に骨補填材を入れて骨の吸収を抑える「ソケットプリザベーション(抜歯窩保存術)」。これは、次の治療に向けて骨をできるだけ良い状態で保つ方法です。

逆に、こうした配慮をせずにただ歯を抜いてしまうと、骨はどんどん吸収され、後からインプラントをしようとしたときに骨が足りず、GBR(骨造成)が必要になってしまうことがあります。

私はよく、「次の治療が決まっていないのに歯を抜くのは、次の家が決まっていないのに、今の家を退去してしまうようなもの」とお伝えしています。抜いた後にどうするかをあらかじめ計画したうえで、それに合った抜き方をすることが、患者様の負担を最小限にするためにとても大切なのです。

抜歯即時インプラントとソケットプリザベーション:選択肢を最大限残すために

抜歯後の骨を守る方法として、「抜歯即時インプラント」と「ソケットプリザベーション」という2つのアプローチについて、もう少し詳しくご説明します。

抜歯即時インプラントは、歯を抜いたその日に、同じ場所へインプラントを埋入する方法です。最大のメリットは、骨が吸収して痩せてしまう前に治療を進められることです。抜歯窩にインプラントが入ることで骨が温存され、結果として骨造成を回避できる可能性が高まります。手術の回数も減り、治療期間もおよそ4〜6ヶ月程度で完了することが多く、患者様の負担を大きく軽減できます。

ただし、抜歯即時インプラントは、感染が少ないことや、インプラントを安定して固定できるだけの骨が残っていることなど、いくつかの条件が整っている必要があります。歯根破折の状態によっては、適応にならないこともあります。

そうした場合に選択するのが、ソケットプリザベーションです。抜歯した穴に骨補填材を入れて、骨が大きく痩せてしまうのを防ぎ、骨の形をできるだけ保ちます。これによって、後からインプラントを埋入する際に必要な骨量を確保しやすくなり、大規模なGBRを避けられる可能性が高まります。

いずれの方法も、「歯を抜いてそのままブリッジにする」「抜いて放置してから、後でインプラントを考える」という一般的な流れとは異なる、その後の選択肢を最大限に残すためのアプローチです。当院では、抜歯が必要な場合でも、こうした方法を通じて患者様の将来の治療の幅を確保することを大切にしています。

抜歯後の選択肢の比較:インプラント・ブリッジ・入れ歯のどれを選ぶか

歯根破折で歯を抜いた後、失った歯を補う方法には、主に「インプラント」「ブリッジ」「入れ歯」の3つの選択肢があります。それぞれに特徴があり、患者様の状態やご希望に応じて選んでいくことになります。

ブリッジは、両隣の歯を削って支えにし、橋渡しのように人工の歯を固定する方法です。固定式で違和感が少ない一方、健康な歯を削る必要があります。入れ歯は、取り外し式で歯を削る量が少ない反面、噛む力が弱く、装着時の違和感が出やすいという面があります。

ここで、歯根破折のケースで特に注意していただきたい点があります。それは、歯根破折で抜いた歯の隣の歯を支えにしてブリッジを作ると、その隣の歯まで失ってしまうリスクがあるということです。

歯根破折は、噛む力や食いしばりなど、お口全体にかかる力の問題が背景にあることが多くあります。つまり、一本の歯が割れたということは、その隣の歯にも同じような負担がかかっている可能性が高いのです。そこへブリッジで支台歯として大きな負担をかけてしまうと、隣の歯も歯根破折や歯周病を起こし、共倒れになってしまうケースが少なくありません。

その点、インプラントは、隣の歯を一切削らず、独立して機能します。周囲の歯に負担をかけず、噛む力を顎の骨で支えるため、残っている歯を守りながら長期的に安定させやすい方法です。

歯根破折という「力の問題」が背景にあるケースだからこそ、隣の歯を守れるインプラントが、長期的な選択肢として選ばれる理由がここにあります。

>>当院のインプラント症例はこちら

歯根破折を防ぐために:「噛み合わせ」へのアプローチが最大の予防

ここまで、歯根破折の症状や診断、治療の選択肢について解説してきました。しかし、最も理想的なのは、そもそも歯根破折を起こさないことです。

では、歯根破折を防ぐためには、何が大切なのでしょうか。

一般的な歯科の情報では、予防策として「丁寧な歯磨き」や「定期検診」が挙げられることが多くあります。もちろん、これらは大切なことですが、歯根破折の予防という観点から見ると、それだけでは不十分だと私は考えています。

なぜなら、歯根破折の最大の引き金は、虫歯や磨き残しではなく、歯にかかる「力」だからです。強すぎる噛み合わせ、歯ぎしりや食いしばり、そして歯を内側から押し広げてしまう硬い土台の素材 -こうした「力」に関わる要素にアプローチすることこそが、歯根破折を根本から防ぐ鍵になります。

この「噛み合わせ」や「力のコントロール」という視点は、当院が特に大切にしている領域です。

歯を割れにくくするために、力をどう分散し、どうコントロールするか。ここに踏み込むことで、歯根破折のリスクを大きく下げることができます。

ここからは、歯根破折を防ぐための具体的な方法について解説していきます。

ナイトガード(マウスピース)で夜間の過剰な力から歯を守る

歯根破折を防ぐうえで、特に注意したいのが、就寝中の歯ぎしりや食いしばりです。日中は無意識のうちに力をセーブできていても、眠っている間は、自分でコントロールすることができません。

驚かれるかもしれませんが、就寝中の歯ぎしりや食いしばりでは、場合によっては自分の体重を超えるような、非常に大きな力が歯にかかると言われています。この強大な力が、毎晩のように歯に加わり続けることで、歯の根には少しずつダメージが蓄積していきます。特に、神経を抜いて脆くなった失活歯にとっては、これが破折の大きな原因になります。

こうした夜間の過剰な力から歯を守るために有効なのが、ナイトガードと呼ばれるマウスピースです。就寝時にナイトガードを装着することで、歯にかかる力を分散させ、特定の歯に負担が集中するのを防ぐことができます。歯ぎしりの力を、歯そのものではなくマウスピースが受け止めてくれるイメージです。

ナイトガードは、歯やインプラント、被せ物を守るうえで非常に効果的な方法です。また、ナイトガードは保険診療でも作製することができるため、比較的取り入れやすい予防策でもあります。

歯ぎしりや食いしばりの自覚がある方はもちろん、ご家族に「歯ぎしりの音を指摘されたことがある」という方も、一度ナイトガードを検討してみる価値があります。割れてしまってからでは遅いからこそ、予防的に歯を守る習慣が大切です。

メタルコアからファイバーコアへ:「硬すぎる土台」を変えるだけでリスクが下がる

神経を抜いた歯には、被せ物を支えるための土台(コア)が歯の中に入っています。実は、この土台にどんな素材を使うかが、歯根破折のリスクに大きく関わっています。

従来から使われてきたのが、金属製の土台「メタルコア」です。メタルコアは丈夫ですが、歯そのものよりもはるかに硬いという特徴があります。噛む力が加わったとき、この硬い金属が歯の内部で楔(くさび)のように働き、歯を内側から押し広げてしまうことがあります。この「楔効果」が、歯の根を割ってしまう大きな原因の一つになります。

これに対して、近年広く使われるようになってきたのが「ファイバーコア」です。ファイバーコアは、グラスファイバー(ガラス繊維)を主成分とした土台で、天然の歯に近い弾力(しなやかさ)を持っています。歯と同じようにしなることで力を受け流し、メタルコアのように歯を内側から押し広げてしまうことが少なくなります。

つまり、被せ物をやり直すタイミングなどで、メタルコアからファイバーコアに替えるだけで、歯根破折のリスクを下げることができるのです。素材を変えるというシンプルな対応が、歯根破折の予防として非常に直接的で効果的な手段になります。

もちろん、すべてのケースでファイバーコアが最適というわけではなく、歯の状態によって適切な選択は変わります。被せ物の作り替えを検討される際には、土台の素材についても歯科医師に相談してみることをおすすめします。

歯根破折でお悩みの方へ:渡辺歯科医院が選ばれる4つの理由

ここまでお読みいただき、「歯根破折かもしれない」「他院で抜歯と言われたけれど、どうすればいいのか」と悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。

歯根破折は、正確な診断と、その後の治療方針が、歯やお口の未来を大きく左右する病態です。

だからこそ、「どこで相談するか」がとても重要になります。当院では、歯根破折でお悩みの患者様に対して、ただ「抜く・抜かない」を判断するだけでなく、抜歯後の治療まで見据えた、総合的なサポートを大切にしています。

一本の歯を残せるかどうか、抜くとしてもどう抜くのが最善か、その後どう噛む機能を回復していくか -こうした一連の流れを、一貫して相談していただける体制を整えています。

ここからは、歯根破折でお悩みの方に当院が選ばれている4つの理由を、それぞれが「臨床的になぜ必要なのか」という観点からご紹介します。単なる設備やサービスの紹介ではなく、患者様の歯を守るために、それがどう役立つのかをお伝えしたいと思います。

①精密CT診断:見えない破折を見える化して、治療方針を根拠ある判断で

歯根破折の診療において、当院がまず大切にしているのが、CTによる精密な診断です。

これまでお伝えしてきたように、歯根破折の多くは、一般的なレントゲンだけでは見つけることが難しい病態です。特に縦方向の破折は2次元の画像には写りにくく、「レントゲンでは異常なし」と言われたまま、原因が分からず不安を抱え続けている患者様も少なくありません。

当院では、CTを用いて、破折の位置・深さ・方向を立体的に確認します。見えなかったものを「見える化」することで、その歯を残せるのか、それとも残すことが難しいのかを、推測ではなく根拠を持って判断することができます。

この「根拠を持って判断する」という点が、患者様にとっては非常に重要です。なぜなら、なんとなくの判断で抜歯を勧められるのと、CT画像で破折の状態をはっきりと確認したうえで説明を受けるのとでは、納得感がまったく異なるからです。ご自身の歯がどのような状態なのかを、画像を見ながら理解していただくことで、治療方針にも安心して臨んでいただけます。

「見えないものを見る」ことは、歯根破折の診療において、すべての治療方針の出発点になります。当院では、この最初の診断を丁寧に行うことを、何よりも大切にしています。

②抜歯後即時インプラント・ソケットプリザベーション:抜き方にこだわり選択肢を増やす

当院が選ばれる2つ目の理由は、「抜き方」へのこだわりです。

歯根破折で抜歯が避けられない場合でも、当院ではただ歯を抜くのではなく、その後の治療を見据えた抜き方を徹底しています。記事の中でもお伝えしたように、抜歯と同時にインプラントを埋入する「抜歯後即時インプラント」や、抜歯した穴に骨補填材を入れて骨を守る「ソケットプリザベーション」など、状況に応じた方法を使い分けています。

なぜここまで「抜き方」にこだわるのか。それは、抜き方ひとつで、その後の治療の選択肢が大きく変わるからです。骨を温存できれば、大規模な骨造成を避けられ、治療期間も短く、患者様の負担も少なくなります。逆に、何も考えずに抜歯してしまうと、骨が痩せて選択肢が狭まり、後から苦労することも少なくありません。

特にお伝えしたいのは、他院で「抜歯します」と言われた患者様であっても、当院に相談していただくことで、選択肢が増える可能性があるということです。「もう抜くしかない」と言われた方でも、抜く前にご相談いただければ、抜歯後即時インプラントによって骨を守りながら治療を進められるかもしれません。抜歯は、一度行うと取り返しがつかない処置です。だからこそ、その一回をどう行うかに、私たちはこだわり続けています。

③骨造成(GBR)対応:他院で断られた方も諦めないで

当院が選ばれる3つ目の理由は、骨造成(GBR)に対応していることです。

歯根破折を長く放置していた場合や、抜歯から時間が経ってしまった場合には、すでに顎の骨が大きく失われてしまっていることがあります。こうしたケースでは、他院で「骨が足りないのでインプラントはできません」と断られてしまうことも少なくありません。

しかし、骨が足りないからといって、インプラントを諦める必要はありません。当院では、骨を増やすGBR(骨誘導再生法)をはじめとする骨造成に対応しています。骨が不足している部分に骨補填材を入れて骨を再生させることで、一度は難しいと判断されたケースでも、インプラント治療が可能になることがあります。

骨造成は、診断力と技術力の両方が求められる処置です。当院の院長である渡邉は、インプラント治療に関する豊富な経験を持ち、歯科医師向けのインプラント勉強会「i6」において、インストラクター(指導者)としても活動しています。インプラントを行う歯科医師に対して指導を行う立場として、骨造成を含む難症例にも日常的に取り組んでいます。

「他院でインプラントを断られた」「骨が足りないと言われた」という方こそ、諦めずに一度ご相談いただきたいと思います。精密な診断を行うことで、対応できる道が見つかる可能性があります。

④静脈内鎮静(大学病院麻酔科出身の先生による無痛対応):痛みや恐怖を抱える方も安心して

当院が選ばれる4つ目の理由は、静脈内鎮静法による無痛・安心の治療環境です。

歯根破折でお悩みの方の中には、「歯医者がとにかく怖い」「過去のつらい経験から、長く歯科を避けてきた」という方も少なくありません。中には、「歯医者に行くのは30年ぶり」という患者様もいらっしゃいます。痛みや恐怖心から受診をためらっているうちに、お口の状態が悪化してしまうのは、とても残念なことです。

そうした強い不安をお持ちの方のために、当院では静脈内鎮静法という方法をご用意しています。点滴によって鎮静剤を投与することで、半分眠ったようなリラックスした状態で治療を受けていただけます。「気づいたら終わっていた」とおっしゃる患者様も多く、痛みだけでなく、恐怖心や緊張からも解放される方法です。

この静脈内鎮静法を安全に行うために、当院では麻酔の専門家である麻酔科医による管理体制を整えています。大学病院の麻酔科で経験を積んだ麻酔医が担当することで、より安心して治療を受けていただける環境を整えています。

そして、私たちが何よりも大切にしているのは、お口の状態がどんなに悪くても、決して怒ったり責めたりしないという診療姿勢です。これまで歯科を避けてきた方も、どうか安心してご相談ください。「怒らない、あきらめない」を信条に、患者様一人ひとりに寄り添った治療を行っています。

まとめ:歯根破折は「気づく前」から進んでいる|歯を抜く前に一度ご相談ください

歯根破折は、歯の根にヒビや割れが入る病態で、虫歯・歯周病に次いで歯を失う原因の上位を占めています。特に神経を抜いた歯(失活歯)は、痛みを感じるセンサーを失っているため、はっきりとした症状が出ないまま、静かに進行していくのが大きな特徴です。「噛むと違和感がある」「歯ぐきにぷくっとした膨らみがある」といった小さなサインが、唯一の手がかりであることも少なくありません。

そして、歯根破折を放置すると、周囲の骨が溶けてしまい、後からインプラントを行おうとしても骨が足りず、治療が複雑になってしまいます。さらに、抜歯してから相談に来られた場合、わずか数日の差で抜歯即時インプラントが選べなくなり、GBR(骨造成)が必要になって治療期間が大きく延びてしまうこともあります。

だからこそ、私が最もお伝えしたいのは、「歯を抜く前に、一度ご相談ください」ということです。抜歯は一度行うと取り返しがつきません。CTによる精密な診断で歯を残せる可能性を探り、たとえ抜歯が必要でも、抜き方を工夫することで、その後の選択肢を最大限に残すことができます。

「他院で抜くしかないと言われた」「神経を抜いた歯がなんとなく痛い」「もしかしてヒビが入っているかもしれない」-そう感じている方は、ぜひ一度、長崎県長与町の渡辺歯科医院までご相談ください。CTによる精密診断のもと、患者様一人ひとりのお口の状態に合わせて、歯を守るための最善の方法を一緒に考えさせていただきます。

歯根破折は、気づく前から静かに進んでいます。だからこそ、少しでも気になるサインがあれば、早めの行動が、あなたの歯の未来を守ることにつながります。

監修者情報

院長 渡邉 威文

  • 九州大学歯学部 卒業
  • 九州大学総合診療科にて研修
  • 福岡赤十字病院にて研修
  • 山口県萩市にて勤務
  • 福岡県糸島市にて勤務
  • 医療法人渡辺歯科医院 継承
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